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「ヘリテージ」

第48回 「弘前市民会館」

文化都市として知られる青森県弘前市。近年、日本のモダニズム建築をけん引した前川國男の作品が多く残ることでも注目を集めています。そのうちの一つ、当社が施工を手掛けた弘前市民会館は、2024年に竣工から60年を迎えました。

東北屈指の文化センターを目指して

前川國男は1905(明治38)年生まれ。大学を卒業後すぐに渡仏し、日本人として初めてル・コルビュジエに師事しました。前川にとって弘前は、母方の故郷であるとともに、1932(昭和7)年に竣工した自名義の初作品「木村産業研究所」のあるゆかりの深い都市です。

市内には市庁舎や博物館、斎場など、計8つの前川作品が現存していて、一つの街の中で前川の初期から晩年までの作品を追うことができます。

弘前市民会館は1964(昭和39)年、桜の名所として有名な弘前公園の南西角に完成しました。遠くに岩木山を望み、老松が茂る史跡の地で前川が目指したのは「東北屈指の文化センター」でした。

外壁、内壁はともに、当時まだ珍しかったコンクリート打放し仕上げ。堂々たる姿の表面には型枠の木目模様がくっきりと表れていて、人の手作業による温かさを感じさせます。また、周囲の緑とも溶け合う力強さと美しさも生み出しました。

ル・コルビュジエフランスを中心に活動した近代建築の巨匠。国立西洋美術館本館をはじめとする作品群が世界文化遺産となっている。

弘前市民会館。左から管理棟、車寄せ棟、ホール棟

工夫が凝らされた内部空間

建物は、メインとなるホール棟と、事務所や会議室などから成る管理棟、その両棟を結ぶピロティ形式の車寄せ棟で構成されています。間口39m、奥行き約7mの車寄せ棟は、訪れる人を雨や雪から守り、館内へと迎え入れるエントランスの役も担っています。屋上は解放されたテラスになっていて、前川はそこで岩木山を望み、コーヒーを飲みたいと語ったと言われています。

ホール棟1~2階の吹き抜け階段は、季節を問わず外の景観が楽しめるよう窓際に配置されました。2階の壁や天井には赤や青の色彩が用いられ、鋼管を切ってつなげた独特のシャンデリアとともに、彩り豊かな空間を形成。車寄せ棟の屋上から続くT 字型の手すり壁が、建物全体に統一感を生んでいます。また、管理棟ロビーの天井は深い青色で、照明をランダムに配置することで星空を表現しています。

シャンデリアとT字型の手すり壁が印象的なホール棟内部
星空を表現した管理棟の天井

弘前の景観になくてはならない本建物。この先も文化や芸術活動の中心として、長く愛され続けることでしょう。

 

※すべての写真提供:弘前市民会館

建物概要
所在地
青森県弘前市下白銀町1-6
構造
RC造 B1-3F
延床面積
5,593㎡
受賞歴
第6回BELCA賞ロングライフ部門

弘前市景観重要建造物