NEW 第49回 「豊稔池ダム」
香川県西部の山間にひっそりとたたずむ「豊稔池ダム」。日本にわずか2基しかない、アーチ止水壁が複数連なる「マルチプル・アーチダム」で、中世ヨーロッパの古城を思わせる風格を漂わせています。貴重な近代土木遺産として当社が補修工事を行い、2006年に国の重要文化財に指定されました。
地元農民の手づくりのダム
豊稔池ダムは1930(昭和5)年に、農業用水を確保する目的で建設されました。慢性的な水不足に苦しむ地元農民にとって、悲願のダム建設でした。
当初の計画では、日本で最も多い型式の重力式ダム※1でしたが、地表面の岩盤が軟弱であったため、マルチプル・アーチダムに変更されます。上流側は5連続アーチが水圧を受け、それをアーチとアーチの間に設けたバットレス(控え壁)6基が支えています。

石積みのような堤体は、間知石※2とコンクリートブロックを外側に積み、それを型枠にして粗石モルタルが流し込まれています。

バットレスにはサイフォン式の洪水吐が内蔵されていて、満水近くになると自動的に放水されます。当時の最先端技術とユニークなデザインが見事に調和していると言えます。
3年8カ月に及んだダム建設には延べ15万人が従事、すべて地元農民が担いました。彼らは工事経験に乏しかったため、夜間講習会で技能を習得しながら工事を進めました。まるで自分の家をつくるように、一つひとつ石やブロックを積み上げ、無事故で竣工を迎えたのです。
※1重力式ダム貯水池からの水圧をダムの重量で支える形式のダム
※2間知石四角錐形の石材。底面が表に出るように積む
近代土木遺産の保存
80年代に入り、堤体に亀裂や漏水が目立つようになったため、89~94(平成元~6)年にかけて、当社JVがダム補修事業と周辺整備事業を実施。歴史的価値のある土木構造物として、その保存と活用に重点がおかれました。
アーチの上流側は漏水を防ぐためにコンクリートで補強しつつ、水面から出る頂部には石積みを施し、旧堤体のイメージを損なわない工夫がなされています。

下流側には遊水公園を整備して、市民に開放。バットレスに近づいて水に触れることができるようにし、近代土木遺産に親しむ環境を整えました。
毎年梅雨明けの時期には、溜め池から水を抜く「ゆるぬき」が行われ、洪水吐から豪快に水が流れ落ちます。轟音とともにほとばしる水しぶきが、初夏の風物詩として多くの人々を魅了しています。

建物概要
- 所在地
- 香川県観音寺市大野原町
- 構 造
- 堤高31m、堤長128m
- 堤体積
- 38000m3
2006年 国指定重要文化財
2008年 近代化産業遺産
※本コラムは、2024年5月に社内向けに発行した記事をもとに再構成したものです。